2015年10月8日木曜日

小学校の組み体操問題

小学生のピラミッド型ピラミッドが崩れてけが人が出た問題について、小生も若干書いておこう。

大きな発端は次の「事件」だろう

大阪府の体育祭で組み体操のピラミッド崩れる 生徒6人が重軽傷 http://news.livedoor.com/article/detail/10653277/

八尾市教育委員会などによると、先月27日に市立中学校で行われた体育祭の組み体操で、男子生徒157人が参加した10段のピラミッドが崩れた。この事故で1年生の男子生徒が右腕を骨折する重傷のほか、5人が打撲するなどの軽傷だという。
 参加していた生徒「人がブワーっと落ちてきて、そのまま動けない状況。練習ではたぶん1回も成功していない。(Q:練習では成功しないまま本番?)そうです」
父兄が撮影したであろう動画がYoutube等に上がっており、それなりにショッキングな光景である。ピラミッド型ピラミッドに次々と登っていく子どもたち、しかし有る瞬間、最上段の生徒が床が抜けるようにスポン!と落ちていく。

https://www.youtube.com/watch?v=xccUveA_dEI&t=80

ピラミッド形ピラミッド。何を言ってるのかわからねえと思うが、前後左右からみてピラミッド型に並べることを言うらしい。要するに、角錐上に乗るのだろう。

より高解像度の動画が上がってる

https://www.youtube.com/watch?v=RZuz8vcCN2s&t=70

最後の一人が立ち上がるまで拍手を辞められないPTA。やはりPTAも潜在的には危険を意識している。問題は「落ちなければ&崩れなければ大丈夫」と思ってるであろうところだ。

別の動画があがってる。

https://www.youtube.com/watch?v=euT8t8vS0Xo&t=130

どうやらフィニッシュは、前から崩して滑り降りるらしい。おいおいそれはそれで危険。

https://twitter.com/yasukomatsuoka1/status/651026953332396032/photo/1

ピラミッドが崩壊した学校。去年も骨折者が出ていたのに今年も続けたことが批判されているが、おかしいのはこの学校だけじゃない。 タワーから転落して頭蓋骨骨折→難聴の男の子の学校は「安全対策をして来年もやりたい」と保護者会で説明したらしい。
本人の意思ならまだしも、「学校は」「来年もやりたい」という。

https://twitter.com/yasukomatsuoka1/status/651022516316581889

今年、組体操を止めてソーラン節にかえた学校の運動会を取材した。 子供たちはソーラン節を踊り終えたことに、大きな満足感と達成感を感じていることを語ってくれた。 一方保護者の多くは、物足りなさを感じて、組体操が見たかったと、未練がいっぱいだった。 運動会は子供たちのためにあるべきだ
この問題に関してはこれが全てだろう。楽しいのは保護者ばかりなり。学校としては重要なPTAアピールの一貫なのだろうと邪推することに無理はない。

「物足りない」という感じはまあ判る。小生も近所の夏の花火大会を見てそう思った。去年とは規模が違う。果たして予算が少なかったのだろうか。

しかし忘れちゃいけない。組み体操は生身の小学生がやることなのだ。この乖離は、次の記事に明確に現れている。

それでも私が組体操に取り組む理由。ある現役教師の告白 http://blogos.com/article/137640/

結論から言えば、「何だこのポエムは」という印象。題名からして違和感がある。「組み体操に取り組む」? 教師が組み体操をやるんだっけ?
組体操をやり切った後、校庭を埋め尽くした多くの保護者や校区の方々から湧き上がる拍手喝さいを浴びながら、中には充実の表情で涙を流しながら退場していく子どもたちの表情を見てきた者の、個人的な意見を述べることのみを目的としたい。
何年生?何段?そして「涙を流しながら退場していく子供」に涙を流した理由を聞くべき。本当に達成感だけか?断言するがそんなことは殆どない。理由は後述する。

組体操をもって、引き上げることのできる子どもがいる。組体操や運動会のプログラム全体に対して、運動が苦手な子どもに対しての配慮がなされていないという指摘を目にすることがあるのだが、運動が得意だが学習は苦手という子どもにとってはその配慮が活躍の場を削られてしまうという面があり、一概に言えることではないと考える。

それなら「運動が得意だが学習は苦手」という子供だけで構成するべきだろう。それなら何の反論もない。

ピラミッドは○段まで、タワーは○段までという規制に関しては子どもの無限大の可能性に上限を設定してしまう規制であるということをここで指摘しておきたい。
「子供の無限の可能性」いい言葉ですねえ。ただ論点のすり替えにも程がある。大前提として、危険なことをやらせている、という自覚がないように見受けられる。

危険は落下ばかりではない。そもそも何故落下するのか。落下したら危ないのか、という話が抜けてる。これは数学の教師がちゃんと計算すれば容易に推測できる話だろう。

次の記事に非常に詳細な試算が出ている。

組体操 高さ7m、1人の生徒に200kg超の負荷 10段・11段…それでも巨大化▽組体操リスク(3) http://bylines.news.yahoo.co.jp/ryouchida/20140916-00039130/

組体操の巨大化は、高所にのぼる生徒を危険にさらす。じつはそれと同時に注目しなければならないのが、土台の生徒にかかる負担である。ピラミッドの段が高くなるということはすなわち、土台の上にはより多くの生徒が乗ることになる。ツイッターからは「腰が痛い」「中心部分は叫んでる」「膝に砂が刺さる」など、土台となった生徒の悲鳴が聞こえてくる。
小生が「小学校で組み体操」をしたのは遠い昔、30年以上前の話だが、この一文を見てあの阿鼻叫喚が思い出される。

10段(計151人)の場合、土台の生徒のなかでもっとも負担が大きいのは、背面から2列目の中央部にいる生徒であり、3.9人分の負荷がかかる。中学2年生男子(全国の平均体重48.8kg)で190kg、中学3年生男子(平均54.0kg)で211kgの重量になる。これが高校生にもなれば、2年生男子(平均61.0kg)で238kg、3年生男子(平均62.8kg)で245kgとなる。
そこで前出の教師の言葉と重ね合せてみよう
  • ピラミッドは○段まで、タワーは○段までという規制に関しては子どもの無限大の可能性に上限を設定してしまう規制であるということをここで指摘しておきたい。
  • 中学2年生男子(全国の平均体重48.8kg)で190kg、中学3年生男子(平均54.0kg)で211kgの重量になる。これが高校生にもなれば、2年生男子(平均61.0kg)で238kg、3年生男子(平均62.8kg)で245kgとなる。
「200kgの荷重に小学生が耐える」ことが、「子どもの無限大の可能性」なのか?

前出の動画から、完成直前の有様を見てみよう。


正直、危険を感じる高さだ。なぜこれをPTAが「見守ってる」のか判らない。校舎との対比を見れば判る。2階建てぐらいの高さはある。

2階建てくらいの高さまで積み上がってる人体

再び断言するが、高段の人間ピラミッドは苦行でしかない。それは先の試算でも明らかだ。前出の教師は、一体何をもって「子供の無限大の可能性」を唱えてるのか?
  1. 200kgの荷重が腰に掛っても、身をよじることすら許さないのが無限の可能性か?
  2. 膝と腕に200kgの荷重が掛っても、身をよじることしか許されないのが無限の可能性か?
  3. 下段の生徒が身をよじっても、膝を踏み外さないのが無限の可能性か?
  4. 膝を踏み外しても、落下しないように耐えるのが無限の可能性か?
  5. 生徒数人が上から落下して来て、それが急所にあたったとしても、何の怪我もしないことが無限の可能性か?
  6. 落下した生徒が、下の生徒にダメージを与えずに着地することが、無限の可能性か?
小生がちょっと想像しただけで、これほどの危険がある。

それを全く想像せず、「落ちなければ大丈夫!」としか思ってない小学生教師達(そういう明言はないけど、補助の先生を増やしました!てのはそういうことでしょう?)

「他の学校はやってるから、、」とかいうクラウド論調は全く説得力がない。筋骨隆々&体重の軽い小学生を151人揃えれば必ず成功するだろう。成功した小学校はそうだったのかも知れない。そしてアナタの小学校でそれができれば、「同じく」成功するだろう。

そんな訳がない。ベルマーク貼り作業とは訳が違うのだ。

どうしても高段の人間ピラミッドをやりたければ、荷重のかかる箇所は、体育教諭がやるべきだ。生徒と同じ阿鼻叫喚に耐えて、その上で達成感を唄えてようやく「高段人間ピラミッド賛成派」を名乗れる。
  • 「組み体操に取り組む」のはPTAでも教師でもない。生徒だ。
  • ピラミッドが成功しても、それは教師の手柄ではない。生徒の努力だ。
その乖離があるかぎり、組み体操での事故は永久に無くなるまい。