2017年7月9日日曜日

惑星のさみだれ 評 ※ネタバレ

惑星のさみだれ 評 ※ネタバレ
ほしのさみだれ

水上悟志の出世作と思われる作品。
事実、1巻から10巻までの間にかなり絵柄が変わっている。

この作品全編通して描かれるのが、そしてそれを正しく導かんと奮闘する大人、
そして彼らから何かしらを受け取り成長する若者、登場人物全てが敵味方問わず魅力的である。

戦いのルール

32世紀から、時空を破壊しながら20世紀まで辿り着いたアニムス、名目上は彼がラスボス。そしてそれを止めんと孤軍奮闘する双子の妹、アニマ、何れも地球規模の破壊すら可能とする強力無比なサイキッカー。

ラスボスのアニムスは強力な念動を使い、宇宙空間上のハンマー状の構造物を生成、それを地球に振り下ろすという極めて乱暴な手口を使う。その衝撃で同時に時空が割れて、過去に遡る。明らかにアニムス大幅有利だったが、アニマが一計を案じ、「12人の戦士を倒してからにしろ」というルールで縛る。

12体の従者が、それぞれ現代人から12人の戦士を選び、アニムスと戦うが、概ね一年間で決着が付く。12人の戦士に対して、アニムス陣営は、強力な泥人形を生成して対抗する。

しかし様々な理由によりアニマの負けが続いており、恐らく数100回以上という孤独な戦いを繰り返していたのだ。

先代の戦い

主人公相当のトカゲの騎士の先代は、そうそうに脱落して記憶が無いため「前回」の反省をしにくく、手探りで進む戦いとなった。

  1. 蛇の騎士も、トカゲの騎士を庇って脱落
  2. 犬の騎士から、「フクロウに気をつけろ」という情報だけが伝えられる。

当代の戦士の戦い

「前回」の戦いの結末すら伏線として、様々な要因が絡まって、結果的には10巻で勝利となるが、ご都合主義すら感じさせないほどの見事なストーリー運びと言える。

主人公は、天候あるいは天体をモチーフとした名前と思われる。


  • 朝日奈さみだれ ヒロイン1。不治に近い病を負っていたが、アニマの憑依と同時に延命をして、その反動なのか強力な物理攻撃力を有する。また、アニマに「何がしたいか」と逆質問することにより、当代の騎士に惚れることでそれを勝利へのモチベーションとすることを思い至る。
  • 雨宮夕日 初期は強度の人間不審であったが、それ故に半月の支持を得ることが出来たとも言える。
  • 東雲半月 師匠1。大人組。犬の騎士。持ち前の体術も含めて、序盤の泥人形を単独で倒すほどの使い手。夕日を庇い、なおかつ体術を移譲することにより、夕日の大幅パワーアップに貢献する。
  • 東雲三日月 ライバル枠。半月の死後に現れる。半月死亡による夕日のショックから救い、ある意味開眼させた。また恐らくアニマの「恋人候補」の一人であったと思われる。中学生組女子の面倒を観てることが多い。
  • 南雲総一朗。大人組。42歳の最年長。警察経験を活かして、騎士団を統率する。オッサンながら蹴り技を操る武闘派。序盤は三日月を叩きのめす程度の力はある。
  • 白道八宵。大人組? 長髪カーディガンロングスカートでありながら、竹刀を振る武闘派。河原にすむ人物に稽古をつけてもらっている。
  • 風巻豹。大人組。騎士でありながら泥人形を生み出すという発想は画期的で。生身の戦士の温存に多いに貢献した。また茜の裏切りに気づきつつも、彼が幼かったため、最期まで見守ることを決め、それが結果的に終盤のメンバー温存に繋がった。
  • 日下部太郎。高校生組。ムードメーカー。花子が好き。花子を庇って命を落とすが、結果的に人生に捨て鉢だった花子を現実に引き戻すことに貢献する。戦闘能力的にはやや乏しい。
  • 宙野花子。高校生組。感情の起伏に乏しい女子。太郎の死により、豊かな感情を取り戻す。流体を操り、凍らせる。攻撃力はやや弱いが、援護に非常に汎用性の高い能力で、最期の戦いまで健闘した。
  • 星川昴。年少組。秋谷が頭脳面を鍛え、また雪待と領域を重ねる技を教え得る。 泥人形11体目の脅しにも屈せず、結果的に多人数での領域合成&制御=超必殺技の開発に成功する。
  • 月白雪待。年少組。糸目であるが、時折見開く目はかなり鋭い。武闘派だが直接殴る蹴るをすることはあまりない。頭の良い昴を叱咤激励し、また茜太陽を引き戻すのに重要な役割を果たす。
  • 茜太陽。年少組にして最年少。一次、騎士団を裏切りアニムス側についていたが、「時空を操る能力の欠片」を奪い取ることに成功し、最終戦の騎士団の存命に大きく貢献した。
  • 秋田稲近。師匠2。神通力を得て500年生きたという人物。彼のサイキックが昴と雪待に吸収され、精神的にも戦闘能力的にも大きく成長させる。

結果的には、誰が掛けても勝利しえなかったと思わせるほどの見事なストーリーであった。

最終決戦の場外乱闘3戦

アニムス討伐後も、実は小規模のバトルが3回もある。

  1. さみだれを止めるための、白道+南雲 vs 夕日
  2. さみだれを止めるための、夕日 vs さみだれ
  3. さみだれを止めた後の、夕日 vs 三日月

読者によっては蛇足と見る向きもあるが、改めて読んだら腑に落ちた。

この物語は「アニマとアニムスの代理戦争」ではなくて、
「現代人12人の戦い」であること

それを読者に思い出させる意味があったのだろうと解釈している。

事実、9人の騎士は、従者との別れの悲しみを引き摺らずに、いつものように解散し、読者もこれに追従した。

もう一つ、10年後の茜太陽の姿を描くことで、東雲半月の子どもたちに伝えようとしたもの「オトナは笑顔で」が、夕日を経て伝わったことを描きたかったのだろう。

結果、スッキリとした読後感に繋がってる。